首下がり症候群に対する鍼灸治療  令和元年8月31日 投稿

患者 Dさん
2週間前に急に肩こりを感じて、時々首が刺すような痛みが生じるようになった。
今まで肩こりを感じたことが無かったDさんでしたが、その数日後より急に首が下がるように(うなだれるように)なった。
首下がりは朝はまだ大丈夫だが、午前中より徐々に下がってきて、夕方にはかなり下がってくるため歩くのも辛くなってくるという。近所の方の紹介で来院。

・肩こり自体今まで感じたことがなく、今回のような首が下がる経験もなし。
・起床後は良いが、午前中より徐々に下がってくる。翌日、朝になると、首下がりは良くなっているが、また徐々に下がってくるの繰り返し。
・首下がりは頚部の屈曲+やや左回旋で固定され、顎が胸についている状態。
・首を自動的もしくは他動的に伸展することは可能だが、その状態を自分でキープさせることは困難。
・首下がりによって飲食や呼吸がしにくいということは無いが、歩行は少し歩くと首が下がっているため辛くなる。
・現症状での医療機関の受診はない。
・振戦、筋の固縮、歩行障害などはみられない。動作の緩慢さは年齢的なものもあるかもしれない。
・脳梗塞、パーキンソン病、筋原性疾患、神経原性疾患の既往無し。
・頭板状筋、頚板状筋、頭半棘筋、胸鎖乳突筋などに筋緊張がみられる。特に胸鎖乳突筋に強い緊張がみられるが、仰臥位にすると緊張は若干治まる。
・可動域は自動では屈曲以外のすべての方向で十分ではなく、静かに他動的に動かすと若干角度が増す。

<治療・結果>
治療は、頭頚部、肩回りの筋肉の緊張を緩めることと首周りの循環促進を目的に局所治療+全身を整える治療を行った。治療内容は雀たく、置鍼、鍼通療法を適宜行ったあと、マッサージを行った。

治療直後は、首下がりが若干改善するものの、変化はみられなかった。
初回治療後にご本人にご高診願を医療機関に持って行って頂いた。頚部MRI施行で頚部脊柱管の狭窄がみられましたとのことで、鎮痛剤と漢方薬を処方された。
その後、4回ほど施術したが、全く変化がみられないとのことで、治療を終了した。

<考察>
首下がり症候群に対して鍼治療を行ったことは初めてだったので、記録などはないかネットで調べてみた。1、2件、鍼による改善がみられたという報告があたが、詳細が語られておらずどのような治療をおこなったかは分からなかった。
首下がり症候群は前頚部の筋の過剰緊張または頚部伸展筋の筋力低下によって起こると考えられるが、多系統萎縮症、パーキンソン病、重症筋無力症、脊髄小脳変性症、ALS、筋源性疾患、加齢に伴う頚椎症などが原疾患にあってで生じると言われている。

鍼灸の守備範囲は末梢神経が原因とする除痛と血流の促進によって改善する症状・疾患であり、上記疾患に対する鍼灸の効果は不明である。

ネットに上がっていた数例は鍼灸治療で効果があったようだが、鍼灸以外では上頚神経節ブロックで改善させている報告もあり、その根拠に脳血流の低下が本疾患にあり、それを改善させることで効果がみられるとしている。

したがって、脳の血流を積極的に上げられる鍼灸治療法があればひょっとするとがあるかもしれないが、今回は改善させられることはできなかった。
ご本人も別の医療機関で精査してもらう予定だということを聞いたので、それで良いと思う。
時間が経つと首下がりが固定してしまうという報告もあったので、早く良い方向に進むことを願うばかりです。

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