パニック障害が疑われた患者への鍼灸治療の1症例

症例
30歳代、男性、接客業
愁訴:動悸、聴覚過敏
現病歴:3か月前まで職場にパワハラ上司がいて辛かった。2か月前にその上司が転勤になり、気持ち的に楽なった。ところがある時、趣味のキャンプの帰り道の車の運転中に急に動悸と過呼吸状態になった。それから、色々な症状が出るようになった。動悸と過呼吸は10回/日くらい急に起きる。特に車に乗っているときに最初に動悸と過呼吸が起きたシーンがフラッシュバックして苦しくなる。早朝に急に動悸がして、寝汗をかいて起きることも続いた。電話の鳴る音、テレビの音声、会話の声が大きく感じ、かなり気になる。耳鳴りは無し。心療内科では、抗うつ剤と抗不安薬を処方された。また、漢方薬局で、現在の症状に効くと言われた漢方薬を購入し、服薬しているが効果がみられない。

体表所見
胸骨の圧痛   → ストレス反応。動悸や過呼吸などに出やすい反応
みぞおちの反応 → ストレス反応。姿勢からくるコリ、胃の不調などでも出やすい反応

~施術11回目
この約1か月の間は施術後に多少変化はあったが、症状に大きな変化がみられかかった。
施術12回目
動悸 10 → 5
聴覚過敏 10 →4~6
施術15回目
動悸 5 → 3
聴覚過敏 4~6 → 3~4
施術17回目
動悸が時々あるが、小さくなっている。
聴覚過敏 3~4 → 4~5
施術18回目
運転していると時々、動悸する。
聴覚過敏 4~5 → 1~2
施術20回目
運転中に動悸が時々するが、その他の日常生活中は問題ない。
動悸以外の症状は無くなった。
本人と相談の上、今回で終了とした。

考察
診断名は分からなかったが、たぶん「パニック障害」ではないかと思う。
パニック障害とは、突然前触れもなく、動悸、息苦しさ、めまいなどの症状が出現する”パニック発作”を繰り返し、そのため「また発作が起きたらどうしよう」(これを”予期不安”という)と過度に心配になって、生活に支障が出てしまう病気である。
日本にはどれくらいの患者さんがいるかを探したが、具体的なものは出てこなかった。一応、厚生労働省の調査(こころの病気の患者数状況 https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/18/backdata/01-01-02-09.html)によると神経症性障害(恐怖、不安、パニック発作、強迫観念等)の患者数は2002年の50万人から、2017年の83.3万人と1.9倍も増加しているようだ。
今回の症例では、パワハラ上司でのストレスが高まった状態が、心身ともに固定(もちろん、時間をかけて緩解するものだが)されてしまったため、キャンプでの疲れがトリガーになりパニック発作を発症と思られる。
ここでいう”固定”とは何かというと、一つは心理的な固定でトラウマというのかもしれないが、そういった強烈な心的ストレスがこびりついて忘れられなくなる状態(A)。もう一つは、肉体的な固定でこれは実は”ストレス筋群のコリ”(B)だと考えられます。これが、疲労、寝不足、暴飲暴食、冷え、・・・など(C)が重なったときに、パニック発作が発症すると考えている。
つまり、A+B+C → パニック発作 ということだ。
また、予期不安(D)があると、A+B+D → パニック発作 という状態もあると思われる。
(A)(D)に関しては、精神療法やカウンセリングなど良いし、(B)には、筋肉をほぐすような施術や運動やストレッチ、(C)は生活習慣の改善が必要だろう。




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