当院では現在、自律神経症状を訴える患者さんだけではなく、施術を受けられる出来るだけすべての患者様に自律神経を測定させていただいております。
こうすることで、その患者さんの体の調子を客観的に観察することがある程度可能だとわかってきました。ここまで細かく自律神経を測定している施設は県内ではないと思われます。
しかしながら、今後はそういう医療機関や施術施設なども徐々に増えてくるだろうと思われます。今回の報告は令和3年7月の東北鍼灸マッサージ学術大会(山形)で発表させていただいたものを編集したものを載せました。
この発表がきっかけで鍼灸施術が身体に対して何らかの影響を及ぼすことが分かりました。まだまだ、研究段階ではありますが、これからも地味に研鑽していきたいと考えています。
●症例
患者7名 性別:男性1名、女性6名
年齢:30歳代~50歳代
医療機関の受診:あり6名、無し1名
愁訴: 動悸、耳鳴り、めまい、胸痛・胸部違和感、不安感、疲れやすい、不眠、パニック発作、イライラする、頭痛、頭が重い、頚・肩こり、背部の張り感など
●治療
施術頻度:1~2回/週のペースで施術した。
治療①:陰谷、陰陵泉、三陰交、中封、太白、太衝、太谿、少海、曲池、郄門、翳風、百会の中で反応のあったツボを適宜選択し、置鍼(10分)。
治療②:天柱、風池、完骨、大杼、風門、肺兪、厥陰兪、心兪、督兪、膈兪、肩外兪、肩中兪などの頚肩背部の反応のあったツボに置鍼、もしくは鍼通電(2Hz、10~15分)。
治療③:左星状神経節置鍼法(13分)
通常:①+② 症状が強い場合:①+②+③
効果判定
症状は問診またはvisual analog scaleで改善度を確認しました。
症状の消失、または8割以上改善したものを“症状改善”としてカウントした。
自律神経の測定:施術前に自律神経測定器(株式会社YKC製 TAS9VIEW<RW>)を用いて、脈拍数(≒HR)、SDNN、TP、LF、HFを測定しました。
●結果と考察
1.愁訴について
7名の不定愁訴の総数は61症状(平均8.7±3.1)であり、動悸、倦怠感、息切れ、めまい、首肩コリなどが半数以上の患者にみられました。
平均10.7±2.8回の施術を行い、46症状(75.4%)が改善しました。
特にイライラする、気分が乗らない、ため息が出るなど精神症状の改善が顕著にみられました。
鍼治療により頚部のコリが解消し、そのことが視床下部へ何らかの影響を及ぼし、そのことが自律神経機能を高め、症状の改善につながったと考えられました。
2.HRとSDNNについて
一般に心拍数(HR)が60~90台程度が標準的ですが、中にはスポーツ心臓などで心拍数が少ない人もいれば、もともと少ない人もいます。HRが100を超えている場合は注意が必要で、緊張している場合もあれば、体調が悪くてHRが上がっている場合もあります。
もちろん、様々な疾患で上昇しているケースもありますので、数値が高いときは併せて検査や通院、服薬の状態をお聞きしています。
SDNNは心拍数のばらつきを表します。心拍でも血圧でも体温でも実はいつも同じではなく日内変動はもちろんですが、単時間の間に測定しても同じでありません。このような測定値には微妙な変化、“ゆらぎ”があります。これは健康であるほど、大きく、不規則に起っています。逆に、府県な状態であるほど一定の測定値を示す傾向にあります。
心拍数のこのような変動をHRV(心拍変動)と言い、このばらつきを表しているSDNNが大きいほど自律神経の活動が盛んで健康であり、小さいほど自律神経の活動が弱く不健康であると言えます。
結果ですが、HRは初回に比べ後期で4.4%減少、SDNNは25.9%増加し、鍼灸治療により自律神経の活動度が盛んになったと考えられます。
初回 | 中期 | 後期 | |
HR | 78.9±9.4 | 74.7±8.3(5.3%↓) | 75.4±6.7(4.4%↓) |
SDNN | 29.7±10.5 | 37.1±9.5(19.9%↑) | 40.1±11.7 (25.9%↑) |
3.TP、LF、HFについて
測定された心拍数を解析することで自律神経の活性度を求めることができます。TPはトータルの活性度、LFは交感神経の活性度(一部に副交感神経を含まれる)、HFは副交感神経の活性度を表しています。
自律神経は交感神経と副交感神経に分けられ、交感神経と副交感神経は以下のような働きをしており、これらは本人の意思には関係なく働いています。
この自律神経に関してはhttps://asunabarou.com/compatible/autonomic-nerves/
で説明しているので参考にしてください。
最も良い状態は交感神経・副交感神経ともに高いレベルで活動している時でありますが、ともに活発に活動しているという条件範囲内では交感神経と副交感神経の活動度はシーソーのように変化しながら、均衡を保ちつつ、生命維持に働いています。
病気や疲労等で時としてバランスを欠く状態が生じる場合があります(以下参照)。
交感神経↑↑ 副交感神経↑↑ 健康
交感神経↑↑ 副交感神経↓↓ 慢性ストレス、機能性大腸症候群、易感染症等。
交感神経↓↓ 副交感神経↑↑ 疲労、無気力、だるい。
今回、施術によってTP、LF、HFがそれぞれ13.9%、16.3%、23.6%増加し、自律神経機能が高まる傾向を示しましたが、特に不定愁訴との関係が深いとされる副交感神経(HF)の改善率が高かったです。
初回 | 中期 | 後期 | |
TP | 6.2±0.6 | 6.5±0.5(4.6%↑) | 7.2±0.7(13.9%↑) |
LF | 4.1±1.0 | 4.6±0.9(10.9%↑) | 4.9±1.8(16.3%↑) |
HF | 4.2±1.5 | 5.2±0.8(19.2%↑) | 5.5±1.1(23.6%↑) |
●まとめ
鍼灸施術によって、自律神経系の様々な症状が改善しました。
施術回数はおおむね10回程度をみると、良い結果に結びつきやすいようです。
施術とともに自律神経の測定を行いましたが、施術回数が増えるごとに測定値が良好になっていきました。
症状の改善と測定値の上昇には関係があるかもしれませんので、測定器は客観的な観察に利用できると考えております。
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