不安神経症と診断された患者への鍼灸治療の1症例

不安神経症とは?
不安神経症は、現在では全般性不安障害(Generalized Anxiety Disorder:GAD)とも呼ばれることが多い疾患である。強迫性障害やパニック障害などの「不安障害」の一つで、日常生活中で漠然とした強い不安感のほか、様々な心身の症状が生じる。
例えば、運転していて事故したらどうしようとか、仕事で失敗したらどうしよう、新型コロナに感染したらどうしよう、地震が来たらどうしよう、など日常生活上のあらゆるものが不安材料として浮かび、日常生活に支障が出てくる。
パニック障害や社交不安障害は苦手な状況がハッキリしているが、不安神経症は不安を感じる範囲が非常に広く、日常に起きる生活のすべてであるという違いがある。
また、緊張、いらいら、怒りっぽさ、不眠、集中力がない、記憶力の低下などの精神症状、肩こりや頭痛、めまい、耳鳴りなどの身体症状、頻脈、発汗といった自律神経症状も認める。
このような不安感と心身の症状が続くため、仕事をこなすのが難しくなってきたり、日常生活にも支障を及ぼすこともある。
不安神経症の発症は30~40歳代が多く、思春期以前は少なく、女性が男性の2倍ほど多いと言われている。
治療には、薬物療法(抗うつ剤、抗不安薬、漢方薬など)、精神療法(認知行動療法、森田療法など)が行われる。

症例
男性、30歳代、団体職員
主訴:動悸、不安感
現病歴:半年前に仕事中に足を負傷し、それをかばって仕事をしていたら足の痛み↑、腰の痛み+。
整体で治療を受けたら、一旦は楽になったが、その後痛みがぶり返してきた。
2か月前から「自分はこのまま悪いままなのだろうか・・・」と考えるようになり、「このまま良くならないのではないか」という不安感が常に付きまとうようになった。と、同時に胸痛、動悸、過呼吸、手のシビレが出るようになった。
近医を受診して、「不安神経症」と診断。抗不安薬と抗うつ剤を処方されたが、忙しかったり、疲れてくると不安感と胸の痛みが生じ、特に仕事でミスをすると強烈な不安感に襲われる。職場では、勤務日や時間を調整してもらったが、自宅に1人でいると動悸や不安感を生じ、時に自殺念慮が出てくるので、無理にでも出勤している方が楽だという。

体表所見
右の背部脊柱起立筋が盛り上がっている 
胸骨、鎖骨周囲の圧痛 
胸鎖乳突筋の緊張           → これらは強いストレスを現わす証左

施術内容
上記体表所見に加え、後頚部や肩甲間部の筋の緊張、腹診の状態を改善させるような治療を組んで行った。
施術3回目
ガクッと落ち込むことが少なくなった。
施術5回目
医師に相談して抗不安薬を減らしたが、その為か動悸が出る。また、最近、悪夢を見ることがある。
施術6回目
大きな不安感や胸の痛みが無くなった。朝、起床後に動悸+。
最近、長距離を運転すると腰痛+。
施術7回目
初回を10とすると、動悸3、不安感3。
施術8回目
新型コロナ感染し、2週間の自宅待機。動悸がひどくなった。
施術10回目
動悸が出てくるのは夕方から夜、疲れているときに出やすい。
不安感は、少なくなっている。
施術13回目
動悸はあるが、不安感はほとんどなくなった。
施術18回目
動悸2、不安感0~1。
日常生活は問題なし。仕事にはほとんど支障がないくらいまで回復した。
施術21回目
仕事がかなり忙しかったので、動悸が夕方以降1度あったがその他は問題ない。
抗不安薬は飲んでいない。抗うつ薬も1/4錠になっている。
施術23回目
夕方以降の動悸もかなり治まっている。仕事が忙しい。
一旦、ここで治療は終了することにして、何かあったら来院するように説明をした。

考察
約1年間に渡る期間で、治療をさせて頂いた。最初は週1回のペースだったが、徐々に間隔をあけ後半はほぼ1~2回/月のペースで施術させていただいた。
患者は、元々体力気力があり、仕事をバリバリやるタイプ(仕事が早く、人の何倍もこなす)であるが、やはりそこは人間、やりすぎると気力体力を消耗し、判断力が鈍り、仕事も失敗する。
当初は、自殺念慮も出ていたので慎重に対応し(同時にクリニックにそのことをDrに話すように説明)、身体を整えるために長くかかることを了解してもらった。東洋医学的に説明するならば、肝気のうっ滞を取り除き、腎気を補う治療を行った。不安感は良くなりやすかったが、動悸が最後まで残った。ただ、患者によってはこれと逆のことも良くある。徐々に心療内科系のお薬を減らすことに成功したが、飲まなくても大丈夫になるまでは無理させてさせてはいけない。一気に無理をさせ、症状が出ると「ああ、やっぱり駄目なんだ・・・」という不安感が出てしまうので、少しづつ行動を増やす方が良いと思う。以前、良くなった患者が会社の都合で無理をしてしまい、かえって悪くなってしまったことがあった。鍼灸治療は、薬物治療やその他の治療ともぶつからないので、併用して利用するのが理想だと考えている。

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