コロナ鬱に対して施術を行った1症例について~自律神経を測定してみえたもの~  令和3年3月19日投稿

新型コロナによる自粛がもとでコロナ鬱になった患者に対して施術を行い、施術効果がみられた症例に関して報告する。

患者 :Y.Aさん 70歳代 女性

症状 :倦怠感、やる気が出ない、食欲不振、気分が乗らないなど

症状歴:令和2年の6月頃より現症状出現。

元々、快活な方でヨガ、水泳、体操サークルなどに積極的に参加していた方だったが、新型コロナによる自粛で活動が休止になってしまい、自宅にこもることが徐々に増えていった。

お友達とお茶のみで行き来することも多かったが、それもほとんどなくなり一日中テレビを見て過ごすことが多くなり、外出は朝夕の20分程度の散歩と最低限の買い物の時しか外出しなくなっていた。一人暮らし(子供らは独立)なので、他にお話しする相手もいなく、寂しい思いをしていた。

体調が悪くなってから、かかりつけ医にそのことを相談し、抗不安薬などを処方してもらって、服用を続けているが、症状に大きな改善はみられていない。当院には腰痛の治療で通院していた過去がある。

治療:自律神経の調整・精神安定作用を目的に肩甲間部の緊張部を目標に鍼・灸をして、全身の血流調整として手足に鍼をした。

2診目から腰痛、腰とお尻が冷えるということから腰と仙骨部、仙腸関節部の治療を追加した。

4診目には腰痛軽減、気持ちもやや楽になった。

5診目は数日前に震度5の地震が発生してから体調↓、さらに排尿後に陰部の違和感が出現してきたとの訴え。以前から排尿後に違和感があり、病院で検査をしたが問題はなかったという。そこで今回から今までの施術に、陰部神経への鍼通電を開始した。

6診目では排尿後の違和感が大幅に軽減した以外に、気持ち的にもかなり楽になったという。

8診目には倦怠感ややる気が出ないなどの症状も軽減しており、積極的に掃除や庭の草むしりができるようになってきた。

倦怠感、やる気が出ない 10 ⇒ 4

食欲不振        10 ⇒ 4

排尿時の違和感     10 ⇒ 2

自律神経の測定

1診目と8診目に自律神経の測定(上のグラフ1診目、下のグラフ8診目)を行った。

2つを比較すると1診目では自律神経活動度16.8なのに対し、8診目では23.9と活動度が増加しているのが分かる。また、波形を比較すると、1診目のほとんどは波形に動きがみられないが、8診目では波の動きも大きくなっており、活動性が出てきているのが目でも確認できる。

次に自律神経活性度を見てみると1診目ではパワー5.33、交感神経2.50、副交感神経1.07であるのに対し、8診目ではパワー5.82、交感神経3.84、副交感神経4.88と増加していた。特に副交感神経の値に増加傾向がみられた。

また、自律神経のバランスでは真ん中の濃いグレーのところに来ているのが最も良いのだが、1診目よりも8診目の方が真ん中に近く、交感神経と副交感神経のバランスが整ってきているのが分かった。

最後に総合評価では1診目ではストレス指数10、ストレス抵抗力14、健康度41点だったのが、8診目ではストレス指数5,ストレス抵抗力19、健康度67点と改善傾向がみられた。

考察

今回の症例で考えなければならない重要なことは新型コロナ禍での自粛により、心身とも活動性が低下して疲弊していたことがすべての要因だということである。

特にY.Aさんは1人暮らしではあるが、普段は様々なサークルに所属して活動的に動いていることで心身を健康に保っていた。が、自粛によりそれが失われたことで、心身を健康に保つことができない状態になっていたということである。

コロナ自粛が始まって1年が過ぎようとしているが、世間ではこのような状態になっている方が高齢者を中心に多く存在していることが推測される。

自治体や政府には潜在的なものも含め、このような新型コロナ禍による自粛で体調の不調を訴えている国民の大規模な実態調査を行い、対応に踏み切るべきだと考えている。

今回、施術中に大いに会話をしたことも本人の気持ちを解放し、精神的な安定をもたらしたことに影響を及ぼしたのではないだろうか?自粛の中では対面で会話する機会が大幅に減らされるので、それが精神的な負担や苦痛につながっている。

リモートや電話があるじゃないか?という人もいるが、対面でなければ伝わらないものもあるし、すべての方がリモートで対応できるというものでもないのだ。“肌感覚”というのはこのような文明の利器ではつたわりにくいのである。

また、治療により排尿時の違和感が改善したが、このような日常生活上の不快感が取り除かれることでも精神状態が楽になった可能性もある。心療内科的な要素を抱えている患者さんに対し、肩こりの苦痛を取り除くだけで気持ちが楽になることがしばしばみられるが、これと同じものだろう。

また、腰とお尻の冷えを訴えていたということは骨盤内の血流不全が考えられ、施術により骨盤内の血流が改善したことで、全身の血流や自律神経の活動が活発になったということも考えられる。

施術の経過観察の一つとして、自律神経の測定を行ったが、自律神経の活動度や交感神経・副交感神経のバランスに変化が見られた。鍼灸は自律神経の調整に優れていると業界内では言われて久しいが、客観的観察が取りにくく、患者の訴えのみで効いた・効かないという議論が久しく行われてきた。今後はこのような非侵襲性の機器をうまく使いこなし、世間に鍼灸の良さを発信させる必要があるのではないだろうか?

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