膝痛の患者さんの治療について 前半  令和元年 5月16日投稿

長かったGWも終わり、いよいよ春本番で温かい日、時にはそれを通り越して暑い日もちらほらみられますね。
また、時折、雨が滝のように降り注いだりとムシムシする日もみられるようになりました。

春はこのように暖かく、雨により湿度も高く、冬の時代に春を待ちわびたかのように雑草がぐんぐん伸びだします。
牧草学ではこの春に一気に草が生長することを”スプリングフラッシュ”と呼び、生の牧草を食べたかった牛や羊たちが待ち望んでいた時期でもあります。
さて、それは人間界ではそう喜ばしいものではありませんね、そう”草取り”の季節でもあるからです。
長い時間、しゃがんだり、前かがみをして腰が痛くなったり、膝に来たりします。
膝は立ったり、座ったり、しゃがんだり、歩いたり、正座したり・・・など多くの動作で使う関節で、
膝が痛くなると、日常生活の多くに影響を及ぼし、「膝ってこんなにも使うんだなあ」と再認識するものです。

中学生・高校生は部活で、ジャンプをしたり、急に膝をひねる(ターン)動作の時に半月板や靭帯などを痛めることが多く、年配になってくると変形性膝関節症と診断される人が増えてきます。
約10年前の大規模な調査によると、男女合わせて3040人、40歳以上の男性の42%、女性の61.5%が変形性膝関節症であったということで、それを日本の国民数に換算すると2530万人(男性:860万人、女性:1670万人)が変形性膝関節症だということです。

個人的には「そんなに多いのかなあ・・・」と考えてしまいますが・・・グルコサミンやコンドロイチン商法がいまだ健在なので少なくないのでしょうね。

ところで、変形性膝関節症に女性の患者さんの方が男性の約2倍多いのは何故でしょうか?
これは、
・男性と比べると膝を支える筋肉量が少ない
・年齢や閉経とともに女性ホルモンの分泌量が減少し、膝の軟骨が磨り減りやすい
などが関係すると言われております。

その他にも変形性膝関節症になりやすい要因として
①肥満傾向の人
②運動不足の人
③O脚の人
④家系で変形性膝関節症の人が多い人
⑤重い荷物を持つことが多い
⑥スポーツなどをして膝をケガをしたしたことがある(半月板や靭帯など)人
などがあげられます。

現代学的な治療には保存療法と手術療法があり、もちろんですが保存療法が優先されます。
保存療法には
①大腿四頭筋強化訓練と関節拘縮の予防のための運動療法
②局所温熱療法(ホットパック、マイクロ波)
③装具療法(楔型足底装具・膝外側装具など)
④薬物療法
⑤関節注射
などがあり、膝の可動域を向上させたり、支持組織を強化したり、痛みを軽減させることが目的になります。
進行した病変に対しては関節鏡下手術(内視鏡)、高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術(TKA)などの手術療法がおこなわれます。

変形性膝関節症の鍼灸治療の一般
鍼灸治療の目的は膝関節の痛みを取り除くことです。
変形性膝関節症の方の膝痛は、膝関節周囲の筋肉や靭帯の状態深い関係があると言われています。つまり関節や関節周囲組織の炎症、関節周囲組織の過負荷によって、筋肉や靭帯組織の柔軟性が低下することで、血流がどんどん悪くなり、痛みを感じる神経伝達物質が膝周辺に増えてしまうのです。この物質が増えてしまうと、わずかな刺激でも痛みを強く感じてしまいます。
すると痛いので、膝を動かさなくなり、膝周囲の筋力が低下し、膝の関節への負担が増加して、関節の変形が助長され、膝の痛みを引き起こすという悪循環に陥ります。

つまり、膝の治療には膝の痛みを取り除くまたは、軽減させることと、
膝に関係する筋肉や靭帯を柔軟にし、健康な可動域を回復させ、それを維持することが重要になってきます。

鍼灸治療は現代医学的に分類すれば、保存療法の一つになります。
膝痛の原因である膝と関係する筋肉や靭帯の傾向を改善して、痛みを取り除いたり、柔軟性を向上させることが目的になります。
特に痛みが強いと、次に行う重要な運動療法がきちんと行えなくなりますので、兎にも角にも膝の痛みを改善させることが、まず第一となります。

ただ、鍼灸単独では痛みの改善に乏しく、痛みがある程度治まった後は大腿四頭筋の柔軟性を高めること、支持力を向上させることで痛みの悪循環を断つことが出来ますので、運動療法は必須と考えられています。

一般的には治療に使われるツボは足三里、陰陵泉、風市、内膝眼、外膝眼、血海、梁丘(下図の赤ポチのところ)、委中、下委中(下図の黄色ポチのところ)などが選択させることが多いです。

赤ポチ(膝表)はお灸、黄色ポチ(膝裏)は指圧やマッサージが良いです。
関節内水腫(膝に水がたまる)では鍼のよりも灸の方が効果が高く、特に血海、梁丘(一番上の赤ポチ二つ)へのお灸は効果的です(市販のせんねん灸でも十分効果が出てきます)。
また、鍼は深刺よりも浅刺しの方が効果が高かったという報告もあります。

そう考えると、膝の周囲の痛みは筋肉ではなく、膝周囲に分布している大腿神経皮枝などの興奮ではないでしょうか?

しかしながら、このような一般的に選択されるツボにハリや灸をしても改善が難しい場合があります。
変形性膝関節症のステージにもよりますが、足首や骨盤、股関節の方から治療していかないと良くならないケースもみられます。
特に痛みが慢性化したケースでは他の関節にも影響を及ぼしていることが多いからです。

また、早く良くなるには日常生活にも注意が必要で、必要以上に膝に負担がかかることは厳禁です(重い物をもったり、しゃがんだり、正座したりなど)。
この動作や姿勢をしているうちは良くなりません。

治療しているから・・・といって痛みがあるのに草取りや長距離の歩行をしていると良くならものも良くなりません。特に炎症が強くて、ジッとしていてもズキズキする時や水が溜まっている時などは安静にしておいてください。

また、運動療法が良いからと、痛みは強い段階で膝を一生懸命動かしている方がいますが、これも良くありません。
膝を伸ばしても痛くない、90度直角に曲げても痛く無ければ、開始しても良いのですが、足首に重りを巻いて負荷をかけるのはかなり良くなってからにしましょう。
運動療法は根気が必要ですが、あまり力まずにやるのがコツです。

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