産後に腰痛を訴えて来院する患者さんがしばしばおります。
妊娠期の腰痛は赤ちゃんが大きくなりにつれて”体内のゆりかご”である子宮が増大するので、それを支えるために反り腰になってしまうことによっておきるものと、赤ちゃんがは少しずつ大きくなるにつれて骨盤の内腔を広げなければなりませんので、骨盤のつなぎ目に当たる仙腸骨靭帯(仙腸関節)や恥骨結合がホルモン(エルトロゲン、プロゲステロン、リラキシン)の作用で緩くなることで腰痛や恥骨部痛をおこすものが考えられています。
出産後は、その”体内のゆりかご”の必要性が無くなりますので、オキシトシンというホルモンが分泌され緩くなった靭帯や増大した子宮を硬く、小さくしていきます。
したがって、それに伴って妊娠時腰痛も軽減してくるのが普通なのですが、まれに出産後に腰痛が残っていたり、出産数か月後に腰痛を訴えてくる方がいらっしゃいます。
これは産後の運動不足(歩行不足)や抱っこなどの不良姿勢などから骨盤の戻りが上手く行かず、中途半端な状態(いわゆる歪んだ状態)で固まったものと考えられます。
多くの場合は骨盤ベルトを装着したり、しこふみや大股歩きなどで解消されますが、まれにそれでも残る場合があります。
そのような場合には当院では仙腸関節運動鍼+AKAを施行しております。
固まっていた仙腸骨靭帯を緩めて、関節の引っかかりを取ることで、仙腸関節の正常な戻りを促進させる作用があると考えられます。
<症例> 30歳代 女性 サービス業
<現病歴> 妊娠中より少し腰痛があったが、第1子出産3か月後より、腰痛や右臀部痛、右鼡径部痛、右膝痛が出現。整形外科ではレントゲンは問題無しで、股関節と膝に注射をしたが変化なし。その後、整体やリンパマッサージや鍼灸などの治療を受けたが変化がみられなかった。じっとしていても腰が苦しい。特に長い時間の坐位で痛くなる。
<検査> 屈曲、伸展、左右側屈で腰痛+
腰部と鼡径部に圧痛とコリ+
<施術>
初回 腰部と鼡径部に刺鍼
2回目 痛み10→8 「少しは効いたかな」と、言っていたが治療効果は良くない
初回と同じ治療
3回目 8→7 「筋肉自体はほぐれている感じはする」「右の腰の奥の方が痛いような気がする」と。
4回目 痛みの場所が仙骨部に限局されてきた。仙腸関節への刺鍼。治療後は腰の苦しい感じが無くなったと言っていたが、その後、都合により来院なかったので効果は不明。
しかし、1年後に寝違いで来院した時に「前回の症状は4回目の治療で症状が消失した」と言っていました。
<考察>
この症例は最初単純な腰痛だと思って治療していました(様々ところを回って症状が改善されなかったので、単純ではなかったのだが・・・)。
多裂筋や腸腰筋の刺鍼では、痛みの度合はあまり変化が無かったものの、数回の治療で痛む場所が腰から仙骨部に移動してきていました。このように、痛みが移動してくることはしばしばみられるもので、2番目、3番目に痛いところが1番目が消失すると顕在化するためであると思われます。そして、その場所が元々痛かった場所の場合が多いです。
今回は最終的には仙腸関節の問題で、産後の骨盤の戻りの悪さから、関節が正常な位置に戻っていないことによる痛みだったのだろうと思われます。
仙腸関節性の痛みはPSIS周辺の痛み(自発痛が多い)、とずっと立っている時やずっと座っている時の痛みを生じさせることが多いようです。痛みというより苦しいのです。
仙腸関節性の痛みはそこを狙わないと取れないことが多く、いわゆる難治性の腰痛と考えられるのですが、このように上手く刺鍼して引っかかりを解除するとすぐに良くなりやすいです。
この方もその後、家族や仕事の同僚なども紹介していたただいたので、治療が効いたのだろうと思います。
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