ホットフラッシュに対する鍼灸治療の1症例

更年期障害は更年期(45~55歳程度)に生じる卵巣機能の低下に起因する身体または精神症状で、50代前半の時点で52.3%の人が大なり小なり自覚していると言われています。

また、更年期障害を自覚した人の7割が医療機関を受診していないことから、受診するまでは無い軽度の症状も多いとも言えます。

ただ、更年期の症状が影響して離職している割合が1割程度のあることから、一部の更年期症状が生活に大きな影響を及ぼしていることも事実です。

参考:ILPTリサーチアイ 第70回  働く女性の更年期離職

JILPTリサーチアイ第70回「働く女性の更年期離職」|労働政策研究・研修機構(JILPT)
JILPTリサーチアイ 第70回「働く女性の更年期離職」 著者:周 燕飛

更年期障害は加齢による卵巣機能の低下によって女性ホルモン(主にエストロゲン)の分泌は低下することから始まります。女性ホルモンの分泌が低下すると、その卵巣に指令を出している脳の視床下部と下垂体が指令を出しているのに(卵巣の)反応が無いため、混乱してさらに強い指令を出してしまいますが、そのことで視床下部の自律神経中枢がパニックを起こしてしまい、自律神経の異常を引き起こすことで生じます。

また、この時期に重なる人生イベントも大きな要因と考えられ、心理的・性格的なこと(老年期への不安や神経質傾向など)や環境的なこと(子供の独立、親や友人の死、夫の退職など)も相まって症状が発現すると考えられています。

症状は、易疲労感・めまい・動悸・頭痛・肩こり・腰痛・関節痛・足腰の冷えなどの身体症状の他にも不眠・イライラ・不安感・抑うつ気分などの精神症状なども生じることがあります。

それら症状の中で最もつらい症状と訴えるものは“ホットフラッシュ”だと言われております。ホットフラッシュは、上半身ののぼせ、ほてり、発汗などが起こる症状のことで、急に顔が熱くなったり、顔や頭に大量の汗をかくことがあるため、人前に出るのが恥ずかしいなど、更年期世代の大きな女性の悩みの一つです。

検査としては、女性ホルモン値の他に、鑑別検査として甲状腺ホルモンの値も調べます。

治療としては、①ホルモン補充療法(HRT)、②漢方薬、③向精神薬などがあります。

症例

患者 :R.Bさん 40歳代後半 女性

症状 :顔、頭部、胸、背中ののぼせ、発汗

症状歴:3か月くらい前より朝方起きる1時間前くらいから頭と頭部を中心にのぼせと汗が出るようになった。その頻度が徐々に増加、今ではほぼ毎日症状が起きている。

婦人科受診したが、特に異常はなく(ホルモン値も正常)、婦人科で出された漢方薬を服用しても症状に変化なし。

症状を詳しく説明すると、5時頃に顔が熱くなって、上半身から大量の汗が1~2時間ほど出てくる。汗が出た後は手・足がスーッと冷えてくる。夜寝るときも手・足が冷たい。

また、日中でも寒いところから熱いところに移動したり、熱いものに触れたり、食べたりすると顔から汗が噴き出してしまう。

精神・心理的所見:-

社会・環境的所見:-

施術

寸3の1番で全身調整の鍼、肩背部に置鍼(寸3の2番)、

百会と神庭にピコリナのスイープモードで鍼通電(1~30Hz、パルス幅50μs)、後頚部にバーストモードで鍼通電(2Hz、パルス幅250μs)寸6の3番。

結果

のぼせと発汗の状態をNRSでみてみますと、初回を10とすると4診目では5になった。

のぼせと発汗の時間は初回の時は1時間半くらいあったが、3診目では60分、4診目では30分になった。頻度は3診目までは毎日あったが、4診目では週の半分くらいになった。

衣類については、初回から3診目までは寝ている時に暑いので半袖だったが、4診目では長袖でも可能となった(因みに1診目~4診目は11月中)。

4診目終了後(1週間後)には0となり、症状が無くなったので様子をみたいというTELを頂いたので、施術は終了しました。

しかしながら、数か月後再び症状が出てきたため、現在も施術に来院している。発現頻度は1回/1週間~2週間に抑えられてはいるようだ。発汗はほぼ無いが、のぼせが生じている状態だそうです。

考察

鍼灸の効かせどころは、自律神経中枢の機能を安定化させることであるが、これは脳の中枢神経に直接作用させるものと肩こりなどの身体症状を改善させることで精神的に楽にさせるものの2つが考えられます。

このような症状で1回/週の施術で4回で症状が消失したのは、少し出来すぎであり、本来ならばもう少しかかるのかもしれないし、場合によってはあまり症状が変化しないこともあります。

施術によって症状が変わっていく人と変わらない人の違いは現時点では良く分かりません。どのくらいの人に効果があるのかも分からないのが現状です。本来ならば大規模で質の高い臨床研究ができれば、もう少し分かってくるのだが、鍼灸にはお金をかけないというのがこの国の考え方です。

悲しいかな、それが日本において医療業界から排除されている鍼灸の立場なのです。

愚痴になってしまいましたが、現場の鍼灸師は現場のやり方で患者さんとその症状と真摯にぶつかり、悩みながら少しでも良い結果を出すしかないようです。

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