自宅でお灸のススメ

今回、ご自宅でお灸をして頂くために解説文&動画を載せることにしました。

これは初心者の方向けに作成しておりますので、ごく易しい解説となっております。

お灸に興味があって、やってみようかなと思っている方はどうぞ、入門解説書としてみて頂けたらと思います。

当院の施術を受けられている方の中で、「この方は自宅でやってもらいたいなあ」とか、「さらに施術の効果を高めるにはどうしたら良いか?」と考えていまして、最終的に自宅でお灸をしてもらうのが一番だということにたどり着きました。

当院ではツボカードを配布したり、お灸を購入していただいた方には簡単な解説書を渡しているのですが、もう少し丁寧な説明が必要だと感じていました。

そこで、動画による解説(準備中)とホームページによる解説を見てもらうのが手っ取り早いと思い、今回このような運びとなりました。

もし、「さらに個別の説明を受けたい」とか、「直接指導してもらいたい」という方は、当院では”家庭でも出来るお灸講座”を開催(不定期)していますので、そちらに参加していただければと思います。

鍼灸師として、日本古来からあるシンプル医療であるお灸ライフを身近なものとして広がっていけば良いなと思います。

お灸に使われるモグサとは?

モグサは艾と漢字では書き、草餅で用いるヨモギの葉の裏にある白い綿毛を乾燥させたものです。

精製度合いの低いものは黒くて、葉っぱとか茎のような入っているので手触りが悪いのですが、精製していくと黄色っぽくなってきて、綿花のようにふわふわになっていきます。

温灸用などの安いものでは1g5円から精製度合いが高く、産地も良好な高級品では1g100~200円もします。

いつ頃から灸の材料にモグサを使うようになったかは定かではありませんが、モグサを燃やした時の温度がだいたい百数十℃で、モグサが当たる皮膚表面は60~80℃と言われています。これは新聞紙約290℃、たばこ約700℃、プラスチック約750℃、と比べとても低いとは思いませんか?

艾の燃焼温度がこのように低く、柔らかい熱量だからこそお灸に使われたのかもしれません。

お灸の効果とは?

体の不調を整えるのに、我々鍼灸師はハリや灸を用いたりしますが、それ以外にも指や手のひらで皮膚や筋肉を押したりする指圧やマッサージがありますよね。

ハリ治療は素人の方にはちょっと無理がありますが、お灸はご自宅で簡単に”治療+癒し”を行うことができます。

お灸は熱を用いてツボを刺激する療法ですが、指圧やマッサージに比べ効果が高く、しかも安全かつ簡単に行うことができます。

からだを変化させる力は

ハリ > 灸 > 指圧 > マッサージ

の順になっており(物理的刺激量から判断)、自宅で行える本格的治療法としてお灸は最適で、思わぬ効果をもたらすことはまれではありません!

痛みを抑える、筋肉のコリを解消する、冷え症改善、自律神経失調の改善などの他、お灸独特の効果として免疫力を上げる効果もあります。

お灸の種類

お灸にはモグサを皮膚の上に置いて行う焼き切る直接灸(有痕灸)と皮膚とモグサの間にショウガやニンニク、塩、味噌などを置いて台座とし、その上にやや大きめのモグサを置いて行うもの、厚さ数ミリの厚紙を台座にするもの(台座灸)、棒状に固めたもの(棒灸)・・・などの間接灸(無痕灸)があります。

市販されているものはほとんどすべてが間接灸で、台座が厚紙でできたタイプと円筒形のものがあります。素人には簡便で、安全にお灸を楽しめるのでお勧めです。
画像は、左から台座灸、真ん中が棒灸、右側が直接灸です。

お灸をする前の注意点

某大手お灸メーカーの説明書には

お灸の効果に熱刺激はなくてはならないものです。ヤケドになることを100%防ぐことはできません

と明記しており、私もお灸は熱刺激による治療法なので全く熱くないものは効きにくく、多少の熱さ(40℃以上)は最低必要だと考えています。
市販の灸でも火を使うタイプは40℃以上になっていることが多いので、これらを購入した場合、熱刺激によるリスクは100%防ぐことはできません。
ただし、注意して行えば99%ヤケドは防げることなので、以下の文をよく読んでお試しください。

使用してはいけない人
  • 幼児以下
  • 飲酒した方
  • 熱がある方
  • 認知症の方
  • その他、自分でお灸を取り外せない方、または取り外すことを相手に伝えられない方
  • 薬や化粧品でアレルギー症状(発疹、発赤、かゆみ、かぶれなど)を起こしたことがある方
  • 糖尿病など皮膚への軽い刺激でもヤケドを起こしやすい方
  • 妊娠中(医師と鍼灸師に一度ご相談ください。安産灸というのもあります)の方
使用してはいけない部位
  • 顔面
  • 粘膜
  • 湿疹、かぶれ
  • 傷口

自宅でのお灸手順

用意するもの
  • お灸
  • 灰皿
  • ライター
  • サインペン
  • バスタオル

①お灸

ドラッグストアなどで売っています。湿布薬やテーピングの隣にあることが多いです。
手にとったら必ずその商品はどのレベルの熱さの物なのかを確認してください。
初めての方は一番熱くないレベルのものを購入してください。

商品の箱に”ソフト”とか”弱”とか書いてあります。数字の表示が1~5まであれば、1の熱くない物をです。間違っても、初めても人は”ハード”とか”強”といった物は購入しないでください。
因みに当院でもインターネットやドラッグストアよりもお手頃価格で販売しております。

②灰皿

基本的に何でも良いのですが、灰皿の底面に少しだけ水を入れてください。
ティッシュを水に濡らしたものを敷いてもかまいません。使い終わったお灸の熱を速く冷ますためと、万が一まだ火種が残っていた場合にそれを消すためです。

③ライター

出来れば火力が強いターボライターが〇、これは市販の台座灸の中には火が付きにくいものがあり、点火に時間がかかると指が熱くなる可能性があるためです。
また、火の出るところの柄が長いタイプのライター、いわゆるチャッカマンタイプの方が安全で〇です。

④サインペン

基本的に何でも良いのですが、油性ペンでも構いませんが、お灸の場合特に綿花で消毒するわけでもないので、拭いて色が落ちやすい水性ペンでも良いでしょう。

⑤バスタオル

古いもので構いません。からだの下、もしくはお灸をする患部の下に敷いてください。
万が一、火のついたモグサや灰が落ちて、焼け跡がついたり、汚したりしないようにするためです。

 

ツボの確認


まず、ツボの確認。重要なのは”押してズキッとかズーンとか痛みや重苦しい感覚を確認すること!”押して、痛みがないところはお灸する必要はありません。
近いところに複数痛い場所があれば、”一番痛みが強いところ”がツボです。確認したらサインペンでしるしを付けましょう。

お灸に火をつける


市販されている台座灸を例にお話しします。
親指と人差し指の付け根のいわゆる合谷というツボ付近付近に、シールを剥がしたお灸を置きます。そこで、ライターを使って点火させてます。

「直接患部に置いてから、お灸に火を付ければ良いじゃないか?」と思われるかもしれませんが、患部にライターの火を近づけるのはかなり危険です!


お灸に点火している時間に少しでも動くとライターの火でヤケドする場合があります。
面倒かもしれませんが、安全性を考慮して合谷付近にで点火しましょう。
スモークレス灸など中には火が付きにくいお灸もありますので、しっかり点火したかどうか確認しましょう(煙がモクモクでてきて、モグサの頭が赤くなったらOK)

お灸を患部にのせる


点火したお灸を患部に載せます。この時、先ほどサインペンでしるしを付けたものが効いてきます!
しるしを付けないと「あれっ、どこだっけ?」なんてツボを探している間に手に載せたお灸が熱くなり、「アチチチ!」となりますので、先にしるしを付けることをお勧めいたします。
台座灸は初めに煙が発生しますが、60~90秒ほどすると煙が出なくなり、その頃より徐々に熱くなります。

3分くらい経つとピークを迎え、それが60~90秒ほど続き、次第に熱さが弱まってきます。5分くらい経つと台座横の部分をさわっても熱くなりますので、指でつまんで灰皿に捨てます。
お灸をしている間は、ゆったりした気持ちで、静かにお灸の温度や香りを楽しみましょう。
急に動いたりすると、燃えている灰がこぼれて火傷をする危険性がありますので、注意してください。
※メーカーや温度タイプによってこの燃焼時間は変わってきますので、説明書に従ってください。

初めてでも大丈夫。初心者のためのお灸講座(以下の動画をご参考下さい)

お灸をしている時の注意点

①もし思ったよりも熱かったら?

燃焼温度が最高点に達するとチリチリするような刺すような感覚を感じることがありますが、そのくらいがちょうど”効いている”熱さです。これ以上の反射的に取りたくなる熱さを感じるようならば、熱すぎなので取り除いて構いません。ベストは”ほんのり温かい~チリチリ熱いが耐えられる温度”です。

やってみたら意外に熱くて(60秒なんて)耐えられないかも!?と思ったら、灰皿を確認し、思い切ってお灸を取りましょう。
台座の横の部分も熱くなっていますが、素早くやればヤケドはしません(もたもたしていると熱いです)。
熱さやお灸操作に慣れていない場合は、同時に行うのは最高2個までにしましょう。

②ヤケドについて

お灸の熱さに慣れていなくて、思ったより熱くて、やった後ヒリヒリする場合は水ぶくれになる可能性があります。保冷剤をハンカチに包んで冷やしましょう。

お灸後に幹部が発赤するのは「フレア現象」と言って、「お灸の刺激が中枢に届きましたよ」というサイン(軸索反射)です。疲れていたり、寝不足だったりすると出やすく、ヤケドではありません。

お灸をしている時に熱さと共に、痒いような感覚が出ることがあります。異常ではありませんが、間違っても火のついたお灸の場所を掻かないようにしてください。
※水ぶくれにならないように一番温度が低いものから試しましょう!

③「灸あたり」という現象

お灸直後または翌日から全身のだるさ、疲労感、脱力感を数時間から数十時間自覚して、そのあとに急速に症状の改善がみられる現象を灸あたりといいます。

その他に、頭が重い、めまい、食欲不振、寒気、発熱、吐き気なども生じることがあり、日常生活もままならなくなるほどでることも極まれにあります。
原因としては灸刺激に対する生体の過剰反応と考えられています。

お灸の数が多すぎたりすると起こりやすいので、お灸の刺激量が多すぎることも要因と考えられています。発生機序については不明です。

参考:はり灸理論 東洋療法学校協会

④煙や匂いの安全性にちいて

お灸は点火すると、初期に煙が発生します。換気扇がある部屋か、窓を少し開けて換気させましょう。
1,2回で衣類に匂いがつくことはありませんが、気になるならば予め別な部屋に衣類などを移動させてください。
ヨモギにはシオノールをはじめ、様々な精油成分があり、燃えるときにお香のような独特の香りがします。そのため、お灸の香りでリラックスすたり、気持ちが落ち着くといった人があります。
では、その煙や成分の安全性が人体に悪影響はないのか?という疑問が出ますが、結論を言えば自宅で行う量であれば、問題ないとのことです。
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam/72/2/72_111/_pdf

ただ、喘息などの基礎疾患をお持ちの方などで、お灸の煙をかぐと咳き込んだり、目や喉に違和感が出る方は使用しない方が良いでしょう。

最近ではスモークレス灸という、炭でできた灸やアロマ灸などいい香りの灸も出ています。匂いは少ないのですが、全く無いというわけではありません。ただ、気になるほどでもありません、多少値段が高いです。

また、お灸した後に黄色のヤニみたいなものが付きますが、そのままにしても健康に害はありませんが、匂いや衣類に付着するのが嫌な場合はふき取ってください。

これで良いのか、不安・・・なときは?

ネット情報にはたくさんのお灸やツボの情報がありますが、中には過剰な効果を謳っていたり、間違った情報も散見されます。なので、一番は地域に在ります鍼灸院の鍼灸師に直接相談してみてください。鍼灸師は、ツボやお灸のプロであり、臨床を通じてきちんとしたトレーニングも積んでおります。

当院でもたまに”家庭でできるお灸講座”を開催しています。
お灸のことなどで分からないことがあったらどんどん質問してください!

最後に・・・

新型コロナが流行っていた時に過剰なまでの消毒やマスクによる感染対策は、その終焉ともに落ち着いてきましたが、一部その悪習と言っていいのか分かりませんが、残ってしまいました。
過剰な消毒は皮膚の常在菌を殺し、過剰なマスクは口腔内環境を悪化させ、コミュニケーション能力を低下させました。

また、日本の過剰なまでの薬依存は、そこに住んでいる我々は気づきませんが、世界的には異常と言わざるを得ません。
日本人は、”自らを自らで守ること”をすててしまったかのようです。
ロールプレイングゲームでいうならば、レベル上げをしないで強い剣や防御力の高い鎧を身に着けている様なものです。

今こそ、自身の自然治癒力を今の医療制度などに組み込むことが大事だと思うのですが、そうはいかない現実があります。
したがって、今となっては個人個人が勝手にやるしかないのかなと思います。
皆さんはどう考えますか?

お灸はごくたまに灸あたりやヤケド、そして多少熱いというリスクはありますが、日本古来より伝わるとても健康に良い療法です。

ある有名な鍼灸師の先生はお灸を日頃からやっている人とやっていない人では10年後、20年後の(健康状態が)かなり違ってくるよ!とおっしゃっています。
お灸は長くやれば、長くやったなりの効果があります!継続は力なり!です。
ただ、残念ながら日本ではこの医学文化が急速に廃れていってしまっている事実があります。

鍼灸学校を卒業した後に山形県の整形外科で働いていた頃です。昭和一桁世代の患者さんでも、「お灸はしたこともないし見たこともないね」という方も結構いました。これには卒後の鍼灸師としてびっくりでしたし、残念でさみしい気持ちになりました。学校にいる頃は分かりませんでしたが、世間では鍼もお灸も全然普及していないことが分かりました。

逆にその当時80歳台の大正生まれの方々に同じように質問した時はお灸したことある方やお灸しているのを見たことある方は結構いたと思います。そのへんが何となく境なのではないでしょうか?

当時、それらの大正生まれのおじいさんやおばあさんの肩(肩中兪付近)に500円くらいのケロイドがあることがありました。疳の虫だか、病気にならないとかで小さいころにされた灸だと言ってました。痕からするとよっぽど熱かったと思います。実はこれは健康灸の一つでお寺さんなどを中心に昔は行われていました。しかし、昭和一桁以降のお生まれの方では見たはことがありません。

このまま、いったら日本のお灸文化は過去のものになってします!!ここで食い止めねば!!
そして、それを若い世代に残さなければ!!
と思いながら、微力ながら伝統医療の普及の掛け声をあげているところです。

ゆくゆくは小・中学校などで生徒に指導できれば、そして何人かでもお灸を日常的に行ってくれて、それを子や孫に伝えるようになればいいなと思っています。